信濃の国からこんにちは

三崎隆です。私たちは『学び合い』(二重括弧の学び合い)の考え方を大切にしています。

答え教えろよ

 3日前に,『学び合い』の考え方をみんなで共有して授業を行うと,経験交換ケースの会話がダントツの多く現れることを書きました。経験交換ケースの会話が極めて多く現れる授業が,『学び合い』の考え方をみんなで共有できている授業の特徴と言えます。換言すれば,『学び合い』の考え方と言っていなくても,会話分析してみると経験交換ケースの会話がとても多く現れる授業はそうであると言い切ることができます。
 ところが,現象論的にわいわいがやがやしていて一見すると素晴らしいアクティブ・ラーニングのような,いわゆる主体的対話的で深い学びが起きているように見えてしまう授業でも,経験交換ケースの会話が現れない授業もあります。その典型的な事例が,以前にもご紹介しましたが,子どもたちの会話に耳を傾けてみると「答え教えろよ」と言い合っている授業です。あるいは「(これが答えだからないしは答え言うから)答え早く書いて!」の発話が現れる授業です。どうみても,経験が交換されていると解釈できませんから,現象論的には『学び合い』の考え方が共有されている授業のように見えてしまいますが,そうではありません。
 その意味においては,『学び合い』の考え方がみんなで共有されている授業かどうかと言うのは,現象論的には判断が難しいと言えます。会話分析してみて初めて分かることであるとも言えます。だから,「三崎先生の言う『学び合い』ではないかもしれませんが...」という前置きをされるのかもしれません。実際,『学び合い』の考え方をみんなで共有してやっている授業です,と言われるので会話を録音して分析してみたところ,経験交換ケースの会話が現れてこなかったという過去もあります。
 答え教えろよ,の会話にならない授業を心がけたいものです。
 参考までに,過去に答え教えろよの内容を書いたブログを再掲します。
<2021年7月10日>
 ずっと以前に,ある都道府県の『学び合い』の考え方で授業をされている学校におじゃまして,『学び合い』の考え方で授業をしているというある学級での授業を参観させてもらったことがあります。『学び合い』の考え方を受け止めているというだけあって,全体を見ていると子どもたちの活動は闊達で,それは見事なもののように見えます。まさに,今流に言わせてもらえれば,主体的・対話的で深い学びが現れているようです。
 そこで,子どもたちに近づいて会話を聞いてみることにしました。そうしたところ,多くの子どもたちから聞こえてくる会話は「答え教えろよ」でした。あっちに行って「答え教えろよ」。ところが聞かれた子どもたちも分からずに,その子たちはしかたなくこっちに来て別の子どもたちに「答え教えろよ」。しかしながら,その子たちも分かりません。うろうろしながら,「答え教えろよ」の繰り返しとなりました。それが一人ではありませんでした。
 こうなると,表面的には,とてもアクティブで闊達,『学び合い』の考え方で授業が展開しているように表面的には見えますが,本質的には受け止めてもらっていないことが分かります。ほとんどの子どもたちにはゴールが見えていませんし,ゴールが見えている子どもたちにとってもそのゴールが果たして求められているゴールなのかどうか迷ってしまっています。
 まして,そのゴールに向かう過程に,トライ・アンド・エラーしながら一歩ずつ近づいていこうとしている様子が現れていません。そもそも,今トライしていることがゴールに向かう過程として必要な物であるのかどうかさえ,自ら判断できていない状況が生じてしまっています。そうなると,エラーを起こしたときに修正,改善の方向が見えてこないので,子どもたちにとってはただ意味のないトライを繰り返すことになってしまいかねません。
 子どもたちに活動を任せるためには,必要なゴールを明確に,それに向けて動き出すための選択肢となる環境を整えてあげることが肝要です。
<2018年6月18日>
 『学び合い』の考え方による授業に慣れていない人,つまり考え方を十分に享受していない人が授業をすると,どうしても活動中に現れる現象にとらわれるように思います。子どもたちが自由に話し合う現象さえ現れれば,それで良しとはしないまでも安心してしまうのかもしれません。まさに主体的・対話的で深い学びでもあるかのように見間違えてしまっても致し方ないものです。でもその話し合いを近くに行って耳を傾けてみると「答え教えろよ」なのかもしれないのですけど。その授業の目標の先にある目的がどこにあるのかを見間違えていることに依るものと考えられる現象です。はたして,「答え教えろよ」の会話でもOKなのでしょうか。
<2015年11月28日>
 我々の提案するアクティブ・ラーニングへの一番の近道である『学び合い』の考え方による授業(いわゆる二重括弧の学び合い)で,一番取り組みやすいのは算数・数学です。それは間違いありません。その理由は2つ。一つは,教師にとって目標を作りやすいから。もう一つは子どもたちにとって誰でも自己評価できるから。前者は誰でもよく分かるでしょうが,後者は見逃されがちです。子どもたちが自己評価できない目標は全くダメです。「答え教えろよ」になってしまうからです。できる子にとっては何と言うことのないことでしょうが,できない子分からない子にとってはやる気が一気に下がります。いいですか,「チョモランマに登頂するには大切なことは何でしょう」と言われたら,あなたならどう答えますか?間違いなく,やる気を失うでしょう。やる気を失うどころか最初から考える気さえ起きないかもしれません。教師が出す目標としては良いかもしれませんが,子どもたちが学ぶ目標としては適切とは言えません。子どもたちの自己評価できる目標を用意しましょう。それが真のアクティブ・ラーニング成功の秘訣です。