信濃の国からこんにちは

三崎隆です。私たちは『学び合い』(二重括弧の学び合い)の考え方を大切にしています。

魚がほしい人には捕る方法を教えよ

 魚がほしい人には,魚を与えるのではなく,魚を捕る方法を教えよ,という諺があります。そのときの状況にも依りますが緊急性が高くない場合には,目先の欲求だけを満たしてあげるのではなく,汎用性の高い知識や技能を教えてあげる教育の大切さを教訓として我々に示してくれています。
 学校教育の授業の時も,答え教えろよという求めに対して,答えそのものを教えてあげるのではなく,答えを導き出すことのできるアプローチを教えてあげたいと思うところです。教師だけでなく,子どもたちに対してもです。子どもたちがその考えを共有することができる環境が整ったとするならば,そのときは苦労したとしてもその後必ずや素晴らしい成果をもたらしてくれるものと信じて止みません。
 「答え教えて」と言われたら,「どうやったら答えを出せるかを,一緒に考えよう」と。

 

良さを褒めてあげたい

 先日の臨床経験科目のガイダンスの折に,担当の先生から受講する学生のみなさんに対して,模擬授業を実践したら良かったことだけでなく,ここをこんなふうにするともっと良くなるということを指摘し合って高め会いましょうという主旨のことが語られていました。もっともなことであると思います。一方で,一見すると良いところと思われないような所の良さを認めて褒めてあげたいと思うところです。彼らにとっては,当たり前のことかもしれず,そんな当たり前のことは当たり前なので良さとは思えないのかもしれませんが,それが他大学や他地域に行くと全く行われていない展開であったり工夫であったりすることが往々にしてあるのです。そんな良さを見逃すことなく,それはとても魅力的な良さなのである点を大いに褒めてあげたいと思っています。良さをより一層伸ばしてあげることができるとしたら,それは全国に誇ることのできるその人の強みになり,またその人の自信にもつながります。あなたのその当たり前は,全国の当たり前ではないのだから,その良さを大切にしましょう,と。

 

理科の授業は問いに始まり問いに終わる

 私の担当する,学部の中学校の理科免許取得のための”各教科の指導法”の科目の講義では,「理科の授業は,問いに始まり問いに終わる」と語っています。各教科書会社の教科書,小学校も中学校も,を見れば一目瞭然です。小学校では問題解決の過程の,中学校では探究の過程の,それぞれのいちばん最初の段階には,必ず問いがあります。小学校でも中学校でも,自然の事物・現象の中から,自分で問いを見つけて,小学校ではそこから問題解決の過程が進みますし,中学校ではそこから探究の過程が始まります。問いがないところに,問題解決の過程も探究の過程も始まりようがないことは自明です。
 問いから始まった理科の授業は,小学校では問題解決の過程を経て問いが解決しますから,最後には問いに帰ります。中学校でも探究の過程が幕を閉じて問いが解決するのです。私たちは自分で見つけた問いを解決するために,どのような方法で探究したらよいかを考え判断して,観察,実験という行動を起こすのです。一連のその過程は,問いがあればこその営みです。問いのある展開が,理科の授業の生命線と言えます。

 

教科書の改訂

 今の学習指導要領が告示されて,小学校で令和2年度から全面実施になってから4年が経ちましたので,本年度から小学校は教科書が改訂されました。中学校は令和3年度から全面実施になって教科書が使用され始め,本年度で4年間使用されますので来年度の令和7年度から教科書が改訂になります。教科書はおおかた4年区切りで改訂されています。
 学習指導要領が実施に移されてから小学校ではすでに5年目,中学校では4年目となりました。小学校,中学校の学校現場では,学習指導要領の趣旨が活かされる教育が展開しているでしょうか。一般社団法人日本科学教育学会2023年度第5回研究会では,「学習指導要領改訂に向けて-「個別最適な学びと協働的な学び」の再考を軸として-」というテーマで大会が開催される予定です。子どもたち一人一人に,個別最適な学びが展開し,相互に協働的な学びで満たされ,求められている資質・能力がより一層獲得されることを願ってやまないものです。

 

ゴールに向かうとき

 単位時間の授業の冒頭で目標が示され,ゴールが分かったときに,子どもたちはそのゴールにどのように向かおうと考えるでしょうか?おそらく,今までに経験してきたことを使おうとするのではないでしょうか?まず何をするでしょう。きっと,教科書を開くのではないでしょうか。教科書のどこを拓けば良いかが分かれば良いです。どこを拓けば良いかが分かっても,そこに書いてあることがらや説明が一度読んで分かれば良いですが,分からないときにはどうしたらよいのでしょう?もう1回読み直して,自分でよく考えるでしょうか。教科書以外で参考にできる資料があれば,それも開いてみるかもしれません。3回目の読み直しを始めるかもしれません。そんなときに,誰かに聞いてみるという方法を取ることができたら,それも隣の子だけでなく,自由に立ち歩いていろいろな子の考えを聞くことができたら,と思います。そんな経験をしている子どもたちはそのアプローチを試みるでしょうが,そんな経験を一切禁じられている子どもたちは挑戦しようがありません。ゴールに向かおうとして,困ったときに誰かに聞いてみるというやり方を一つの経験として持っていることが重要な意味を持つことになると思っています。

 

臨床経験科目が始まりました

 新しい年度がスタートし,授業が始まっていますが,本学の臨床経験科目も始まりました。学部1年生から4年生まで臨床経験科目が積み上がっていきますが,入学したばかりの1年生の臨床経験科目も始まり,真剣に臨んでくれています。彼らの眼差しがまぶしく感じるほどです。最初の臨床経験は,市内の小学校の放課後活動の支援です。先生として臨む最初の経験です。どのような学びが待っているのでしょうか。4年生は集大成としての教職実践演習に臨みます。これまで培ってきた臨床経験を存分に活かして,自慢の卒業生として活躍できるような,より一層質の高い学びを得るのではないでしょうか。彼らのこれから1年間の学びが充実したものになるよう応援しています。

 

信頼観が生まれる背景

 信頼観が生まれる背景には,相互の関係がより良くなることが大切です。そのためには,ルールを守ることはもちろんですが,相互の合意や約束が守られることや誠実さ,率直さが求められます。授業の時に現れる現象として言えば,自分の発話に対してどれだけ真摯に対応してくれているのかも,相手に対する信頼度を高める要因と成り得ます。理由なく,無視されたり投げやりに対応されたりするとしたならば,信頼度は下がります。そのためにも相手との密なコミュニケーションが必須なのですが,果たしてそのアプローチをしているでしょうか?